気候変動への対応(脱炭素・カーボンニュートラル)は、世界的に取り組まなくてはならない喫緊の課題であり、なかでも建設業が果たすべき役割は非常に重要であると考えています。
当社は2021年度にScope1・2およびScope3の削減のための、2030年を目指した中期目標を掲げ、2022年度から経営企画本部にカーボンニュートラル推進部(2024年度にカーボンニュートラル企画管理部に改称、2025年度には社長直轄部署として改組)を設置し、さらなる脱炭素への推進に向けた取組みを開始しました。2023年3月には長期ビジョン〈TOA2030〉実現に向けた中期経営計画の中で2050年のカーボンニュートラルを目指すロードマップを定め、さらに2024年3月にこのロードマップをベースに、様々な取組みによるScope1・2の削減効果を定量化した移行計画を策定しました。また、Scope3の削減目標の達成を目指し、バリューチェーン全体での温室効果ガス削減も推進しています。
当社では、建設事業のさらなる脱炭素化を目指し、カーボンニュートラルロードマップをベースに、移行計画において今後、当社グループのGHG排出削減を1.5℃目標(世界の気温上昇を産業革命前より1.5℃に抑える水準)に整合させることとし、事業活動に伴う排出の削減と合わせて低炭素エネルギーやネガティブエミッション技術の導入に取り組むことを掲げています。
また、自社の取組みを率先して行うことはもちろんですが、様々なサプライチェーンの皆様と連携を取りながら、低炭素社会の実現に向けて着実に推進していきます。
当社グループは2021年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD : Task Force on Climate related Financial Disclosures )の最終提言への支持を表明しました※1。
TCFDは、気候関連のリスクと機会がもたらす財務的影響に関する情報開示の向上を目的に、G20 金融安定化理事会(FSB)が2015年に設立した国際的イニシアチブです。当社グループはこのTCFD提言に基づき、気候関連の情報を開示しています。
※1 TCFDは2023年10月に解散し、2024年よりIFRS(国際会計基準)が企業の気候関連開示の進捗状況の監督機能を引き継ぐこととなりました。当社は今後もTCFDおよびIFRS S2号(気候関連開示)に沿って情報開示を進めてまいります。
ガバナンス | 気候関連のリスクおよび機会に係る組織のガバナンス |
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戦略 | 気候関連のリスクおよび機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響 |
リスク管理 | 気候関連のリスクについて組織が特定・評価・管理する手法 |
指標と目標 | 気候関連のリスクおよび機会を評価・管理する際に使用する指標と目標 |
東亜建設工業グループの全社的なESG活動の推進のため、「ESG委員会」を設置しています。委員会は社長を委員長とし、副社長1名、本部長6名、常勤監査等委員である取締役、監査等委員である社外取締役1名で構成されます。「ESG委員会」は年2回開催され、気候変動への対応を含むESG活動に関する基本的な方針や具体的な行動計画の立案、活動実績のレビュー、施策等を審議しています。委員会の審議結果は取締役会に報告されるとともに、重要決定事項は事業部門(支店を含む)およびグループ会社に伝達され、グループ一体でのガバナンス体系を構築しています。また、将来的にはESGに関する方針や計画について協力会社とも共有を目指します。
コーポレートガバナンス体制図
気候変動を含む東亜建設工業グループのリスク管理に関する方針、体制は「ESG委員会」にて審議されます。気候関連を含むリスクと機会の分類において、それぞれ想定される事象や影響を整理し、「発生頻度」と「発生影響」に基づいて評価します。各リスク・機会項目に対して、主管部署を設け、予防的対応策を検討しています。これらのプロセスによって決定した当社グループの重要リスク・機会は、ESG委員会にて審議・承認され、取締役会に報告されます。決定した重要リスクは、当社の経営戦略等に統合されます。
取締役会はESG委員会から気候変動関連の事項について報告を受け、気候変動関連の課題への取り組み状況の監督を行っています。
TCFD提言に基づき、当社グループにおけるリスクおよび機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える影響を把握するため、短期(3年)・中期(10年)・長期(30年)のすべての視点を踏まえてシナリオ分析を実施しました。さらに、発生頻度と影響期間を踏まえて影響度を3段階(大・中・小)で評価し、そのうち影響度大と中について下表(主な事業リスクと機会)に示しました。
なお、シナリオ分析にあたり、以下の代表的なシナリオを採用しています。
気温上昇シナリオ | 採用シナリオ |
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1.5℃ | IEA NZE2050
国際エネルギー機関(IEA)が策定したシナリオのうち、産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇を1.5℃以下に抑えるため2050年にネットゼロを達成するためのシナリオ(NZE2050)について分析しました。なお、この分析結果は、IEAが策定した持続可能な開発シナリオ(SDS)についての分析結果の見直しを含みます。 |
4℃ | IPCC SSP5-8.5
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が策定したシナリオのうち、産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇が4℃を越えるシナリオであるSSP5-8.5について分析しました。 |
(1.5℃または4℃のいずれかのシナリオで影響度を「大」または「中」と評価したリスク・機会を記載)
リスク/機会 | 影響 | 影響度(対応するシナリオ) | 対応策 | ||||
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移行リスク | 炭素税導入及び 脱炭素に向けた規制強化 |
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大 (1.5℃) |
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エネルギーミックスの変化 |
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中 (1.5℃) |
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物理的リスク | 平均気温上昇 |
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大 (4℃) |
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自然災害の甚大化 |
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中 (4℃) |
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機会 | 製品/サービス | 環境配慮型建物の 需要拡大 |
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大 (1.5℃) |
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市場 | カーボン ニュートラル 関連施設の需要増加 |
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大 (1.5℃) |
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市場 | 再生可能エネルギーの需要増加 |
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大 (1.5℃) |
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製品/サービス | ブルーカーボン 創出の需要拡大 |
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中 (1.5℃) |
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レジリエンス | 気候変動対応に 対する評価の向上 |
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中 (1.5℃) |
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市場 | 気候変動に伴う 市場変化 |
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大 (4℃) |
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製品/サービス | 海面上昇に伴う 工事需要増 |
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大 (4℃) |
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この分析結果に基づき、具体的な対策として以下に戦略的に取り組むことで、財務への負の影響を抑制するとともに、事業機会の最大化に努めています。
気候変動が当社の事業環境に及ぼす影響は、1.5℃シナリオにおける2030年時点への財務影響が大きいと考え、この条件での財務影響評価を行いました。
1.5℃シナリオでの評価として、炭素税が導入された場合や気温上昇への対応にかかるコストは非常に大きいものとなりました。しかし、移行計画を踏まえた排出量削減対策や熱中症対策などを実施することにより、リスクを大幅に低減することができる結果となりました。また、リスク対応による利益回復だけでなく、ZEB/ZEH建設ニーズや港湾・海岸部の防災対策工事の増加などに対応して積極的な機会拡大を図ることで、2020年度と比較して利益が増加する結果となりました。
これにより、当社のリスクと機会への対応策を着実に実施することで、2030年時点において気候変動に対する一定のレジリエンスを有することが確認されました※2。
今後はさらに、4℃シナリオを用いた将来予測についても積極的に行っていきます。
※2 財務影響評価と将来予測の不確実性について
当社ではTCFD提言に基づき、財務影響評価の定性・定量分析を行いました。この影響評価は不確実性の高い将来について予測するものであり、社内数値やパラメータの変更などがあった場合は適宜見直しを行う予定です。
炭素価格(円/t-CO2) | IEA Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector |
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推定平均労務単価 | 令和6年公共工事設計労務単価 |
真夏日(30度以上)の日数 | 気象庁「地球温暖化予測情報 第8巻3.9」 |
ZEB建築の一般建物に対するコスト増加率 | (一社)環境共創イニシアチブ「ZEB設計ガイドライン」 |
海面上昇に対応する護岸施設の嵩上げ高 | 国土交通省港湾局「港湾における気候変動適応策の実装方針 令和6年3月14日」 |
当社はESGに関する取り組みにおける重要指標(KPI)を策定しその状況をモニタリングしています。重要指標(KPI)の一つとして、今後の気候関連リスク・機会の影響を鑑みて、温室効果ガスの排出総量(Scope1+2、Scope3)を指標とし、SBTに基づいた削減目標を策定しました(2022年9月にSBTイニシアチブからWB2℃目標として認定を取得)。また、Scope1+2について、2050年度までに実質排出ゼロとする目標を2023年3月に設定しました。今後は2030年の1.5℃目標への見直しを進めていきます。温室効果ガスの排出総量は、気候関連のリスク・機会の影響を受ける直接的なパラメータとして管理し、具体的な削減対応を進めていきます。
排出総量 Scope1+2 |
2030年度25%以上削減(2020年度比)※3 2050年度実質排出ゼロ |
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排出総量 Scope3 |
2030年度25%以上削減(2020年度比)※3 |
※3 該当箇所の目標は、SBTのWB2℃目標としてSBTイニシアチブに認定されています(2022年9月)
当社グループのGHG排出総量(Scope別)は下記のとおりです。
2023年度のGHG排出量実績は、Scope1+2については省エネルギー活動、負荷制御システムの導入(作業船の一部に導入)、電動重機・ハイブリッド重機の活用(主に陸上工事の建設機械に導入)、燃費改善(軽油代替燃料や燃焼促進添加剤の使用)、再生可能エネルギー由来電力の導入などにより、基準年(2020年)の排出量から7.5%削減の目標に対して8.3%削減となりました。
一方、Scope3については建築物のZEB化等の環境配慮設計を推進したものの、建設工事の受注増加に伴う建設資材の増加が大きく影響し、基準年(2020年)の排出量から7.5%削減の目標に対して0.2%の削減に留まりました。今後は、サプライチェーンとの対話と連携により、建築物のZEB化や低炭素材料の導入など削減に向けての取組みに、より一層注力していきます。
当社の国内工事におけるCO2排出量はサンプリング調査に基づいて算定しており、事業別の排出量原単位および排出総量は下記のとおりです。この排出総量は、国内工事のScope1+2排出量に相当します。
2023年度は、土木・建築ともに基準年(2020年度)と比べて施工高が大きく増加しましたが、土木(海上・陸上)においては排出量原単位と排出総量ともに減少しました。一方、建築においては排出量原単位が若干増加し、排出総量も施工高増の影響で増加しました。全体として、土木(海上・陸上)における排出量削減が大きく影響し、2023年度の国内工事全体の排出総量は2020年度比で約17%減となりました。この結果が、当社グループのScope1+2排出量の削減(目標達成)にも寄与しています。
上記のGHG排出量に対応した投入資源として、当社グループのエネルギー消費量の集計結果は下記のとおりです。
東亜建設工業グループは、気候変動に関する様々なイニシアチブの支持を通じて、よりグローバルな視点でのESG経営を推進し、東亜らしい社会価値の創造を実現していきます。
CDPは世界有数の環境情報開示プラットフォームを運営する非営利団体で、2024年は世界で24,800社を超える企業がCDPの質問書を通じて環境情報の開示を行っています。
当社は2022年より回答しており、2024年度は気候変動に対する取組みや情報開示が認められ、最高評価となる「Aリスト」に選定されました。
パリ協定の目標達成のため、企業に対して科学的知見と整合した温室効果ガス排出削減目標を設定することを推進する国際イニシアチブ。CDP(環境情報開示に関する国際NGO)、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4機関が共同で運営しています。
気候関連のリスクと機会がもたらす財務的影響に関する情報開示の向上を目的に、G20金融安定化理事会(FSB)が2015年に設立した国際的イニシアチブ。2023年10月に解散。
気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、団体、NGOなど、国家政府以外の多様な主体で構成されるネットワークです。