稲刈り作業が進む田園地帯に糸を引いたようにまっすぐな白い高架橋が伸びている。2023年度末の開業に向けて工事が進む北陸新幹線金沢~敦賀駅間のうちの「北陸新幹線、鯖江橋立高架橋」だ。北陸地方特有の厳しい気候と対峙し続けた6年半に及ぶ工事がこのたび竣工した。
施工場所
福井県鯖江市吉谷町、橋立町、舟枝町、中野町地内
工事概要
工事名: | 北陸新幹線、鯖江橋立高架橋 |
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発注者: | 独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構 北陸新幹線建設局 |
請負者: | 東亜・奥村組土木・松田 北陸新幹線、鯖江橋立高架橋特定建設工事共同企業体 |
工事内容: | 北陸新幹線高崎起点431km758~434km319m(L=2,561m)のうち、ラーメン高架橋34連(6~3径間)、RC橋脚43基、RC場所打T桁橋67連(L=20~9m)、場所打杭591本、既製杭(鋼管ソイルセメント杭)108本、鋼管矢板井筒基礎、橋面工、防音壁、工事用道路ほか |
工 期: | 2017年3月13日~2023年10月31日 |
※上記情報は契約時の情報となります。
福井県鯖江市街東部、北の橋立山、南の三里山に挟まれた田園地帯に2.5㎞に及ぶ高架橋を施工した。最大の特徴が、その施工区域の長さだ。多くの自治区にまたがっており、住宅に近接する施工箇所もある。借地条件や河川漁業者、排水対策、軟弱地盤での振動対策なども配慮が必要だ。
鉄道土木のスペシャリストである所長(現統括所長)の釜野立生は「関係者、地域住民とコミュニケーションをしっかり取らなければ工事はうまくいかない。おざなりにしないように取り組んだ」と語る。施工場所に近接する住宅もあることから、地域住民との対話に力点を置き、「自治区ごとに異なる思いを常にヒアリングし、制約条件を踏まえた施工計画を立案し、工事を進めてきた」という。こうした真摯な対応によって「徐々に信頼関係を築けた」ことが工事を円滑に進める土台となった。
工事は序盤から北陸の厳しい気候との闘いとなった。2017年の着工後、10月に台風が来襲し、「(施工現場北端を横切る)鞍谷川があふれそうになり、(雨水貯留機能がある)田んぼも水でいっぱいになった」。冬季は雨と雪が続いて30㎝を超える積雪もあり、コンクリート打設の際にはテントを張って施工した。18年の夏にも台風によって「足場が飛ぶのではないかと思った」という経験をした。特に爆弾低気圧による西風は、釜野所長ですら「あまり経験したことがない」というほどだった。
釜野の後を引き継いで現在は作業所長を務める山脇徹也は、入社8年目で現場に配属され、北側600mの管理を担当していたが、台風の雨で水路があふれ、地中梁を施工するために掘っていた穴が水でいっぱいになるといった事態に見舞われたこともある。こうした序盤の経験があったからこそ、天気予報を踏まえた飛散養生など最盛期にも万全の対策を取れるようになった。自然の脅威を目の当たりにして「驚いたし、(対応に)苦労した」。着工した当初は「正直、軌道開放に間に合わないのではないかとも思った」と、竣工を前に感慨深げに振り返る。
厳しい自然環境下で釜野所長は、「一定レベル以上のものをつくる」ことを基本方針に掲げ、施工し続けた。「JV所員全員及び協力会社が同じレベルで技術管理できるよう、情報を共有した」という。軟弱地盤で長い杭を打つと杭径が細くなる不具合が発生することもあるが、「信頼できる協力会社と共に知恵を出し合い不具合なく施工できた 」。コンクリート構造物も、「手を掛ければ品質は上がる」との考えの下、「協力会社と協議しながら工夫して一定レベル以上の品質を保てた」と納得顔だ。
山脇も所長の釜野の下、コミュニケーションを重視して管理に取り組んだ。高所からの墜落災害防止には特に気を使ったほか、工区全体の先行区域だったことから「うまくいったこと、うまくいかなかったこと等、施工のノウハウをJV全体で共有した」と現場全体の技術力底上げに力を入れた。
新幹線工事は一般的に、軌道工事が始まる『軌道開放』の時期をずらすことはできず、工期に対する要求が厳しい。だが、橋脚のための場所打ち杭は591本、既製杭(鋼管ソイルセメント杭)が108本に上り、軟弱地盤のためそれぞれの杭の長さも40mを超える。1本当たり3日かかる場所打ち杭を600本近く打つ工程に1年半を費やした。釜野は「ピーク時に必要な資機材が足りなくならないよう、通常より多くのチーム、資材、重機を確保した」と細心の注意を払った。ピーク時には事務所の技術者が25人、作業員が200人という大所帯で乗り切った。