東日本大震災の津波データを用いた研究

大型船舶の津波被害を軽減するための技術

Reducing the risk of tsunami-drifted vessel in the port

概要

2011年の東日本大震災では東日本の広い範囲で津波が押し寄せ、港内に係留していた大型船舶や港湾施設に甚大な被害をもたらしました。津波で漂流した大型船舶の被害としては、衝突による岸壁や桟橋の損傷、クレーンなどの荷役機械の倒壊、大型船の座礁による航路や岸壁の閉鎖が報告されています。また、漂流船舶の中には大型原油タンカーも含まれており、油漏れや火災など大規模な環境破壊を引き起こす可能性もありました。このような港湾施設の被害は、緊急物資の輸送や産業活動を支える物流、エネルギー供給などの港湾機能を長期間にわたって低下させ復旧・復興の障害になりました。

当社は港湾空港技術研究所と共同で、津波による大型船舶への影響や津波からの船舶避難の調査研究を行っており、大型船舶の津波被害を軽減するための技術開発に取り組んでいます。

1)津波計算モデル
津波の数値計算には高潮津波被害シミュレータ(STOC)を使用しています。このモデルは、局所的に大きく変化する地形や構造物と干渉するような津波の解析に適用する3次元非静水圧の非圧縮性流体を対象としたSTOC-ICと、広い領域の伝播計算に適用する静水圧近似を使って計算負荷を低減したSTOC-MLとにより構成されています。両モデルを接続することにより、波源域から浸水領域までの津波を詳細に計算します。
2)漂流物モデル
STOCにより予め計算した津波の水位や流速の時・空間変動データから、抗力と慣性力を評価して漂流物に作用する外力を計算しています。流れによる漂流物の並進運動と回転運動を評価することができます。また、多数の漂流物が取り扱え、漂流物同士や構造物、地面との接触や衝突、漂流物による道路等の閉塞を考慮することができます。
3)実際の津波データを使用
東日本大震災ではGPS波浪計で観測された津波波形や、船舶自動識別装置(AIS)による津波来襲時の航跡データなど実際の津波データが観測されています。このようなデータを用いて、大型船舶の津波避難行動を明らかにするとともに、船舶漂流計算の精度検証を行っています。
AISデータを用いて描いた津波来襲時の漂流船舶

AISデータを用いて描いた津波来襲時の漂流船舶

鹿島港における船舶の津波避難行動結果(総トン数が1万トン以上の大型船舶は、漂流しやすく津波被害を受けやすいことが明らかになりました)

鹿島港における船舶の津波避難行動結果
(総トン数が1万トン以上の大型船舶は、漂流しやすく
津波被害を受けやすいことが明らかになりました)

漂流計算とAISの航跡データとの比較(左:計算結果,右:AIS)

漂流計算とAISの航跡データとの比較
(左:計算結果,右:AIS)

特長

1)東日本大震災で実際に計測された船舶自動識別装置(AIS)の航跡データや,GPS波浪計による津波の観測データを使用
2)大型船舶の津波避難行動分析
3)大型船舶の津波漂流計算

その他

関連論文

  • AISデータを用いた大型船舶の津波漂流シミュレーション
    土木学会論文集B2(海岸工学)、Vol.68、2012
  • TSUNAMI EVACUATION BEHAVIOR ANALYSIS OF LARGE VESSELS IN KASHIMA PORT
    33rd PIANC World Congress, 2014

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