水域における放射能汚染底泥の除去技術を確立
〜福島県川内村のため池1箇所をほぼ全面除染〜

2012年11月14日

東亜建設工業株式会社(社長:松尾正臣)と国立大学法人福島大学(学長:入戸野修)は、共同で事故由来放射性物質(以下、「セシウム」)によって汚染された水域の底泥除去技術を確立し、実証試験(以下、「本試験」という。)により、その効果を確認しました。

【水域における汚染底泥の現状】

水域での放射能汚染については、対応方針や除去基準が明確に策定されておらず未着手となっています。しかしながら、陸域の汚染物質は降雨などにより、やがては水域に移行し、最終的には水域の底泥に集積されます。そして、水域が農業用ため池であれば耕作地の再汚染に、漁場(湖や海域)であれば採餌を通じて魚類の汚染につながりかねません。

このような汚染の拡散を防止するためには、水域に集積した汚染底泥を除去することが最も効果的です。

【本試験における着眼点】

本試験では、福島県川内村に全面的なご協力をいただき、村内の農業用ため池を、汚染された底泥の除去技術の実証試験フィールドとして利用しました。

事前の調査において、ため池中のセシウムは、底泥の表層部分(約厚さ10p)に最大5,300Bq(ベクレル)/kg(乾泥)、水と底泥の間に位置する浮泥層に最大12,100Bq/kg(乾泥)と、上層ほど高濃度で存在することがわかりました。
そして、ため池中に堆積している総放射線量は、約6,500万Bqと推定されました。

ため池などでは、貯水を排水して、陸上建設機械で底泥を除去する方法(ドライ施工)も考えられますが、この方法では高濃度に汚染されている表層泥や浮泥が流出・拡散し周辺域を再汚染する可能性があります。

そこで、次の3つの着眼点から効率的な汚染底泥の除去技術を確立しました。

  1. @薄層の除去

    必要以上に底泥を除去すると最終的に処理する土量が多くなってしまう。

  2. A濁り発生抑制

    除去時に濁りが発生すると効率的に底泥の除去ができないばかりか、底泥に付着したセシウムが拡散してしまう。

  3. B除去土砂の減容化

    @により除去した底泥の脱水による減容化が不十分だと、最終的に処理する土量が多くなってしまう。

【本試験の概要】

本試験では、このようにセシウムによって汚染された表層泥や浮泥を、貯水状態のまま効率的に除去するために、当社がダムなどの貯水池、調整池の堆砂除去用に開発した「マジックボール」(平成21年3月開発)の形状を改良し本試験に投入しました。

そして除去した汚染底泥の最終的な処分量を低減するため、凝集剤による固液分離によって、除去した土砂の減容化を行いました。

また、今回の試験では、あわせて水中の底泥のセシウムの汚染状況を直接計測する水中計測装置(核種分析も可能)を開発し、同実証試験フィールドで測定しました。

【本試験により得られた成果について】

マジックボールは、薄層による除去と濁りの発生を抑える機能を備えており、汚染底泥の除去量を必要最小限にとどめることができました。さらに、固液分離処理後の排水からセシウムは検出されず(検出限界1Bq/kgで測定)、安全、かつ効率的な汚染底泥の減容化も確認されました。

最終的に本試験によって除去した汚染底泥の重量は、脱水後で約50tとなり、そこに含まれる平均放射線量は3,600Bq/kg(乾泥)でした。

また、除去放射線量は約5,700万Bqとなり、ため池中に堆積していた放射線量(約6,500万Bqと前述)の約88%に相当する放射線量を除去することができました。

加えて、水中における底泥の放射線量測定においても、分析室でのセシウム分析結果と高い相関がみられ、水中計測装置の有効性が確認されています。本水中計測装置の導入により、底泥の除染を実施する際に、事前の汚染状況の面的な把握や、汚染状況を確認しながら除去作業を行うことができるなど、確実な施工管理につながる要素技術となりました。

今後は、汚染が懸念される湖沼、海域などの環境回復に貢献すべく、本試験で得られた知見を基に、調査から処理まで一貫して対応できる「汚染底泥除去システム」を確立してまいります。

【本件、共同研究に携わった福島大学の評価】

研究目的およびアプローチについては、社会的ニーズや現場での要求に沿うものであり、的確であると判断される。計画された目標はほぼ達成されており、実用的な底泥除染技術であるといえる。施工方法や原位置測定についてはまだ検討の余地があるものの、実証試験としては十分な成果が得られたものと評価される。
(福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター 特任教授 河津賢澄)

以上

【今回の実証試験に投入したマジックボール(改良型)(全景写真)】

全景写真

【除去作業イメージ】

除去作業イメージ