水際構造物の補修・補強工事で水中に
作業空間を確保する「どこでもDRY」工法を開発

2008年09月24日

  • ◆鋼製函体を対象構造物に接合しドライな作業空間を確保
  • ◆接合部の止水材を凍結させて高い止水効果を発揮
  • ◆柔軟なスポンジ状の止水材で複雑な形状の構造物にも適応

東亜建設工業(社長:鈴木 行雄)、信幸建設(株)(社長:五木田 好成)、(株)精研(社長:石川 芳夫 )の3社は共同で、港湾・護岸・河川構造物の補修・補強工事において、鋼製函体を対象構造物に接合させ、構造物との接合部にスポンジ状の止水材を設置、凍結させることで、ドライ状態の安全な作業空間を作る「どこでもDRY」工法を開発しました。

工法開発の背景

従来、港湾・護岸・河川構造物の海中部(水中部)から干満帯付近の補修・補強工事は、鋼矢板や鋼管矢板を打設した仮締切り工法や潜水作業により施工されてきました。しかし、仮締切り工法では、橋梁の桁下等の矢板打設が困難となるなど、施工条件の制約があるとともに、施工期間が長く費用が嵩む、また潜水作業では作業効率が気中作業に比べて落ちるなどの問題点がありました。これまでもドライ空間を確保する仮設工法が存在するものの、止水の確実性が課題としてありました。

このような背景から、施工の品質を確保するため、ドライな作業空間を構築し、安全性(止水の確実性)、作業効率、および経済性を兼ね備えた技術の開発が求められていました。今回開発した工法は、これまで課題とされていた作業用の鋼製函体と構造物との接合部の止水性を高めるために、柔軟なスポンジ状の止水材を、地盤凍結工法(陸上工事で地盤を人工凍結し、遮水壁あるいは耐力壁を構築する仮設工法)の技術を応用して凍結させることにより、複雑な形状の構造物に対しても確実な止水効果を発揮することができます。

本工法の特長

  1. 様々な形状の構造物に適応
    鋼製函体(以下D-DRY函体)と対象構造物の隙間に挟む止水材は、
    スポンジ状のため、複雑な形状にも適応できます。
  2. 高い品質と安全性を確保
    D-DRY函体を構造物に取り付けて一体化し、函体内部の海水を除去することで
    ドライ状態の作業空間を作り、高い品質と安全性を確保します。
  3. 潮流や波浪など外力への強度を保持
    凍結させた止水材は、「圧縮強度」および「構造物への凍着強度(水分の凍結により構造物に付着する)」を発揮するため、D-DRY函体と構造物が一体化し、波浪等の外力に対する強度を保持します。
  4. D-DRY函体の転用による経済性の向上
    D-DRY函体は、様々な形状の構造物に対して転用が可能であるため、
    経済性の向上が図れます。
  5. 環境への負荷の低減
    止水材の凍結には、薬液ではなく海水や河川水を用いるので、
    水質汚染の発生がありません。
  6. 本工事の早期着手が可能
    止水材の凍結時に液体窒素(LN2)を使用すると、2時間程度(条件によって異なる)で止水機能が得られ、ドライ状態にすることで、本工事の早期着工が可能です。
  7. 止水機能を温度計測により維持
    凍結させた止水材は、温度計測をしながら冷媒供給装置から送られるブライン(塩化カルシウム溶液)または液体窒素(LN2)の調節によって止水機能を維持します。

本工法の手順

  1. D-DRY函体(本体・鋼製)を製作
    対象構造物の様々な形状に合わせた専用のD-DRY函体を製作します。
  2. D-DRY函体に止水材・凍結管・熱電対を設置
    止水材の大きさ、凍結管の径および配置を事前温度解析により決定。止水材および凍結管をD-DRY函体へ設置し、同時に施工管理のための熱電対を設置します。
  3. D-DRY函体を対象構造物へ接合
    函体を対象構造物に接合し、止水材が構造物との隙間を埋めていることを確認します。
  4. 止水材の凍結を開始
    D-DRY函体に配置した凍結管を冷媒供給装置と接続。供給装置からのブライン(塩化カルシウム溶液)、または液体窒素(LN2)の供給を開始して、海水が十分に浸透した止水材の凍結を開始します。
  5. 止水材の温度計測により止水可能な凍結体の形成を確認
    熱電対などによって止水材の温度計測を行い、
    所定の大きさの凍結体(凍結した止水材)を形成します。
  6. D-DRY函体内部の海水を除去
    浮力などの作用に対して、D-DRY函体が安全に固定されていることを確認した後、函体内部の海水(河川水)をポンプアップにて除去します。ドライになった函体内で作業を開始します。
  7. 温度計測管理をして凍結体を維持
    熱電対などによって温度管理を行い、冷媒供給装置からのブライン、
    または液体窒素の供給調節を行い、凍結体を維持管理します。
  8. D-DRY函体を撤去・移設
    作業終了後、凍結体を解凍し、D-DRY函体を撤去・移設します。

今後の展開

今回開発した「どこでもDRY」工法により、構造物の水際から水中部での補修・補強工事において、複雑な形状の構造物に対してもドライな作業空間を簡便な方法で、短時間かつ経済的に構築することが可能となりました。また、施工上の安全面の確保、環境への配慮もされており、今後、様々なニーズに応えられる工法として期待されます。

■適用事例

1.表面に凹凸がある矢板構造物

表面に凹凸がある矢板構造物

2.直杭式構造物

直杭式構造物

3.斜杭を含む杭式構造物

斜杭を含む杭式構造物

4.橋梁下部工

橋梁下部工

施工状況写真
  • スポンジ状の止水材スポンジ状の止水材
  • 凍結管凍結管
  • 凍結管接続凍結管接続
  • LN2供給 LN2供給
  • D-DRY函体設置 D-DRY函体設置
  • 排水後のD-DRY函体内部排水後のD-DRY函体内部