はじめに、2024年1月1日の能登半島地震で被災された皆様に、お見舞いを申し上げます。
当社は、発災直後から日本埋立浚渫協会や日本建設業連合会の一員として、北陸支店を中心に初動対応から復旧復興に向けた支援活動を続けており、2024年度に能登震災復興対策室を石川県七尾市に設け、復興対応を本格化させています。
当社の創業者である浅野総一郎は、富山県の出身であり、私たちも創業者の想いである“社会を益する”精神を受け継ぎ、北陸地方の被災地の皆様の生活が少しでも早く戻るように、今後も社会貢献していきたいと考えております。
中期経営計画の初年度にあたる2023年度を振り返ると、土木・建築・国際の3部門とも目標利益を達成し、過去最高の受注高、営業利益を獲得し、ROEも11.4%という結果となりました。
ウクライナ情勢に端を発する物価上昇の先行きが見えない中でスタートしましたが、幸い建築工事に関しては工期が2年以内の案件が多かったため、コストアップの影響をそれほど大きく受けることがありませんでした。
また、請け負ったインフラ整備事業や建築工事を事故やトラブルなく、高い品質で決められた工期内に提供し、受注した工事の管理をしっかりと正しくやることができたことが過去最高益に大きく寄与しています。工事管理の重要性を再認識いたしました。
ESG経営の深化においては、カーボンニュートラルも最重点課題として取り組んできました。
当社グループの2023年度「Scope1+2」排出量実績は2020年度を基準値にしたときの削減目標の7.5%を上回る8.3%削減となりました。
一方、「Scope3」排出量実績は、事業量の増加の影響により「Scope1+2」と同様の削減目標に対して0.2%削減の結果に留まりましたが、建築物のZEB化や低炭素材料の導入など削減に向けての取組みにより一層注力していきます。
2023年度の当社の取組みに対する外部機関の評価は、CO2排出削減を含めた気候変動に関するCDPのスコアで「A-」の評価を獲得し、前年度の「B-」から2ランクアップし、相対位置は上位17%以内となり、一定の成果を残すことができたと考えています。
また、外部ESG評価機関のS&Pグローバルによる企業のサステナブル評価においてESGスコアが41で、国内大手ゼネコンに並ぶとともに、世界の建設業およびエンジニアリング企業306社(2024年5月20日現在)の相対的位置づけとして、上位15%に入る高評価をいただきました。
中期経営計画では、長期ビジョン「社会を支え、人と世界をつなぎ、未来を創る」の実現に向け、事業拡大を推進する組織作りと人材成長(育成)の両立を図り、その中で「長期ビジョンを実現する事業戦略と人材戦略の融合」をESG経営の深化の基本方針としています。
ESGのS(社会)とG(ガバナンス)は、人を中心に物事を考えることになります。社内で開催したESG発表会では、多くの支店で地域社会と連携した取組みを発表していました。地域社会も人が構成するものです。その意味からもESG経営は、ほとんど人的資本経営に近いものであると気づかされました。
すなわち「ESG経営≒人的資本経営」です。また、人材戦略は、人的資本経営の考え方でいうところの人に投資することを基本としています。従って、「事業戦略と人材戦略の融合」とは、「事業戦略と人的資本経営(≒ESG経営)の融合」でもあり、そのためのアプローチとしてESG経営を進めています。
当社は、社員の中に「心理的安全性」の浸透を目指しています。職場懇談会の充実や360度フィードバックの幹部職への導入の他、普段一緒に仕事をするチーム単位で、「自分たちがより良い働き方をするために何をすべきか」を考える会議をモデル現場で実施し、それを水平展開することで、全国への浸透を図っていきます。
さらに、2023年度に、その多くが女性で構成される地域限定の一般職において公募を行い、一般職の約8割の社員(92名)が「エリア事技職」という名称の総合職へ転換しました。新たに総合職となった社員には、これからの活躍に期待しています。
また、女性の取締役(社外)と執行役員をそれぞれ1名増としています。取締役の女性比率は12人中2名で16.7%となりました。2名の女性執行役員は、それぞれ人事部長とESG経営企画部長を担っています。
2024年度より、私たち建設業でも時間外労働の上限規制が適用されましたが、働き方改革において当社が業界を牽引していくためにも、改めて私自身の責任の大きさを痛感しています。2024年2月に、「東京都ライフワークバランスEXPO東京2024」にパネリストとして参加しました。当社では、ESG経営と人的資本経営の社内への浸透を図るため、前年に引き続き「ESG発表会」、「働き方改革発表会」を開催し、各支店の取組み状況を共有し、働き方改革のヒントやノウハウを全社レベルで水平展開していることを紹介しました。
当社では、社会「S」への理解が社内に浸透しつつあり、これに合わせて人的資本経営の意味も浸透していくと感じています。そのようなESGの社会「S」の理解と人的資本経営の根幹をなす「心理的安全性」が確保されれば、ガバナンス「G」が構築されやすいと考えています。ガバナンスの強化は、サステナブルな企業の土台作りと言えるので、しっかりと取り組み、企業価値向上に努めてまいります。
また、ガバナンスの充実はグループ会社全体に浸透させなければなりません。2023年にグループ会社にガバナンス上の問題が発覚しました。外部の弁護士を委員長とする社内調査委員会の提言を真摯に受け止め、内部統制システムやコンプライアンス体制を一層強化するとともに、当社グループの役員・社員が一丸となって、再発防止策の具体的な施策に取り組んでおります。さらに、グループ会社の経営者を含めリーダーとなる社員は、全社ESG発表会、働き方改革発表会等へ参加してもらい、ESGの方向性と意識の共有を進めます。
2024年度より、社長直轄組織として「技術戦略室」を創設しました。各部門に分散している技術部門を、技術研究開発センターも含めて横断的にリードし、経営に貢献する技術開発を行います。まずは、AIを活用した既存自社技術の高度化、カーボンニュートラルへの取組みに重点を置き、開発のスピードアップに努めます。
技術研究開発センターでは、今年度より環境技術グループを「ブルー・グリーンインフラ技術グループ」に名称変更しました。今後、関連する技術研究開発に積極的に取り組み、外部との共同研究や様々なステークホルダーからフィールドの提供を受けてさらに発展させていきます。
カーボンニュートラル分野では、新たなインフラ整備も今後見込まれる中で、既存顧客、新規顧客ともしっかりと営業展開していくとともに、既に仕組みの整っている海外でのカーボンプライシングにも積極的に取り組んでいきます。
国内土木部門では国土強靭化関連の港湾工事などで一定規模を確保してきましたが、今後も防衛費の増額が予想される中で、防衛省発注工事・米軍工事に堅実に取り組んでいく考えです。
国内建築部門は強みをもつ住宅や物流分野を中心に、ここ数年売上げを増加させ事業拡大を続けていますが、オフィス、医療福祉、官庁工事の分野のさらなる拡大を目指してまいります。
国際事業部門は、ODAの土木事業が今後も堅調に推移すると予想されますが、建築分野での領域拡大を図ります。インドネシアで現地法人を設立しましたが、今後同国での建築事業の拡大に取り組みます。
現在、手持ち工事を約4,700億円抱えており、2023年、2022年に受注した大型物流倉庫関連で施工中の案件が複数あります。また、防衛関連の大型港湾工事も今年度に大きく進捗を伸ばします。
これにより、2024年度は、売上高3,000億円(前年同期比5.7%増)を見込んでおり、まずはこれらの工事の確実な施工管理・安全管理を徹底し、最優先で注力していきます。
資本政策において、2023年度は大規模な自己株式の取得や増配、自己株式の消却、株式分割などに取り組みました。2024〜2025年度は配当性向40%以上を計画しています。
さいごに、2030年にあるべき姿、長期ビジョン〈TOA2030〉「社会を支え、人と世界をつなぎ、未来を創る」の実現に向けた実践内容を改めてお示しします。
今後も当社は株主、投資家、お客様、協力会社、社員をはじめとしたステークホルダーの皆様と建設的な対話を行いながら、適宜施策を見直し、企業価値向上を常に目指してまいります。
代表取締役社長 早川 毅