2015年03月18日
◆劣化損傷した『桟橋鋼管杭と上部工の接合部』のこれまでにない新しい補強工法
東亜建設工業(東京都新宿区:社長 松尾正臣)は、独立行政法人港湾空港技術研究所(神奈川県横須賀市)、國枝稔 岐阜大学教授、岩波光保 東京工業大学教授と共同で、超高強度繊維補強モルタルを用いて、劣化損傷した既設桟橋の「鋼管杭と上部工の接合部」を補強すると同時に、接合部から干満部までの鋼管杭表面の長期防食性も確実に発揮できる「タフレックスPJ工法(Pile Jacketing Method using Tough and Flexible Mortar)」を開発しました。
桟橋の上部工と鋼管杭の接合部(以下,接合部)では、地震力や船舶接岸力等の外力の影響により劣化損傷している事例が多数見られます。接合部において杭が劣化損傷すると桟橋の安全性に大きく影響するため、適切に補修・補強を行う必要があります。しかしながら、従来の技術では、設計当初に期待された耐荷力まで確実に回復・向上できる補強工法はありませんでした。
そこで、接合部において劣化損傷した杭断面を確実に補強できる「タフレックスPJ工法」を開発しました。
本工法は、接合部における上部工の一部をはつり取り(はつり深さ10cm程度)、はつり取った箇所と干満帯までの鋼管杭表面を一体として、高強度・高靱性・高耐久性を併せ持つ超高強度繊維補強モルタル「タフレックス」により巻き立てる工法です。
本工法の特徴は、上部工とタフレックスを一体化させることで、接合部においてタフレックスの有する高強度(圧縮と引張)の特長を最大限まで発揮させるところにあります。これにより、従来の技術では実現できなかった接合部における鋼管杭の断面補強が確実にできるようになりました。
また、従来用いられてきたコンクリートやモルタルによる巻立て材は地震等の大きな外力を受けると大きく開口するような局所的なひび割れが発生し、腐食の要因となる酸素や塩化物イオンなどがひび割れ箇所から容易に侵入するので鋼管杭が著しく劣化します。一方、タフレックスは短繊維(高強度ポリエチレン繊維)がひび割れ幅の拡大を防ぐように繋ぎ止め次々と幅の小さいひび割れを数多く発生する性質がありますので、鋼管杭の劣化はほとんど進行しません。
なお、本工法は、既設桟橋の接合部付近で劣化損傷した鋼管杭の補強を対象としていますが、接合部以外の鋼管杭が劣化損傷した場合、さらには荷役機械や船舶の大型化などの設計外力の増加が求められた場合においても適用できます。
タフレックスPJ工法の概要
劣化損傷した桟橋鋼管杭の全景 | 鋼管杭と上部工の接合部の腐食状況 |
タフレックスPJ工法 施工後の全景 | タフレックスPJ工法による接合部の補強状況 |
複数微細ひび割れ発生状況
タフレックスの特長
◆鋼管杭と上部工の接合部における杭断面の曲げ耐力の向上
高強度・高靭性の特長を有するタフレックスにより鋼管杭と上部工を一体化させることで、接合部における鋼管断面の曲げ耐力の回復・向上を確実に期待できます。
◆鋼管杭の長期防食性能の向上
タフレックスは、塩化物イオンの浸透や酸素の侵入に対する抵抗性が非常に高いため、鋼管杭の腐食に対しても優れた防食性能を発揮します。
◆杭変形に対する追従性と防食性能
地震等の突発的な外力が作用した場合でも、タフレックスは鋼管杭の変形に対して高い追従性を発揮します。また、杭の変形によりタフレックス表面に幅20μm程度以下の複数の微細ひび割れが生じることがありますが、海洋環境下では自己治癒性(ひび割れが閉塞する性質)が発揮されるため、長期的な防食性能が維持できます。
◆耐衝撃性・耐摩耗性の向上
高強度かつ繊維が混入されているタフレックスは、流木等の漂流物に対する耐衝撃性や繰返しの波浪による耐摩耗性にも優れるため、被覆防食工として優れた耐久性を発揮します。
◆ライフサイクルコストの低減
タフレックスは従来の巻立て材に比べて耐久性に優れるため(50年以上の耐用年数)、ライフサイクルコストの低減が可能です。
今後は、老朽化が進み、過酷な環境下に曝される桟橋のリニューアル工事に本工法を幅広く活用していただけるように、更なる施工性向上やコストダウンを推進していきます。また、桟橋にかかわらず、他の構造物(橋脚の基部やラーメン橋の柱,鋼橋の桁等)の補強への適用拡大を図っていきます。