鉄筋コンクリート構造物に適用された電気防食をインターネット上で
管理する支援システムを開発
〜海上桟橋の上部工に適用された電気防食工法の維持管理業務に初めて採用〜

2006年10月04日

  • ◆複数の電源装置や照合電極からの情報を、インターネット経由で一覧表示させ、
    電気防食工法の故障発生やその部位を容易に特定
  • ◆電気防食工法の故障発生時に、専門技術者による具体的な対処方法を
    ユーザーに分かり易く提供
  • ◆日々収集される大量のモニタリング情報を自動で記録管理
  • ◆電気防食工法の点検頻度の省略や省力化を実現

東亜建設工業は、このたび、鉄筋コンクリート構造物における電気防食工法の維持管理を支援するシステムを開発し、海上桟橋の上部工に適用されている電気防食工法の維持管理支援ツールとして初めて採用されました。

今回開発したシステムにより、これまで分かりにくいとされてきた電気防食工法のモニタリング情報を、専門技術者のコメントを添えて、ユーザーに分かり易く提供することが可能になりました。また、日々蓄積されるモニタリング情報を自動で記録管理できることにより、電気防食工法の管理業務の省力化・効率化が実現されました。

なお、本システムは当社開発のサムシング(SAMSWING)を、電気防食工法の維持管理支援ツールとして適用したものです。

※SAMSWING(Sensor aided Maintenance System with Information Technology)

●システム開発の背景

塩害または中性化環境にある鉄筋コンクリート構造物は、鉄筋腐食による早期劣化が問題となるため、施設供用の妨げやその価値を低下させないように、適切に維持管理していくことが重要です。鉄筋腐食の進行を抑制する一つの方法として電気防食工法があります。これまでの電気防食工法の維持管理においては、モニタリング情報を理解するのに専門的な知識を要するほかに、施設共用期間中、長期にわたるモニタリングが必要になるため、電気防食工法の効果を恒常的に把握するために、多大な労力やコストが掛かることが課題でした。

このような背景から、電気防食工法の分かり易いモニタリング情報の提供や、電気防食工法に異常が生じたときの具体的な対処方法の提供、さらには大量のモニタリング情報の記録管理をサポートする技術など、電気防食工法の維持管理業務を効率化かつ省力化できる技術の要請は非常に高くなっています。

電気防食工法とは、コンクリート中の鋼材の腐食反応を電気化学的に制御し、鉄筋コンクリート構造物の鋼材腐食に対する耐久性を向上させる工法です。具体的には、コンクリート構造物の表面もしくは表面近傍のコンクリート中に陽極材を設置し、その陽極材からコンクリート中の鉄筋などの鋼材(陰極)へ直流電流を流します。適切な電流が継続的に流れていれば、鋼材腐食による劣化の進行は抑制されます。

●本システムを適用した桟橋の概要

本システムを適用した桟橋(延長140m)は大阪港(大阪府堺市)に位置し、鋼材の荷揚げ桟橋として利用されてきました。しかし、近年になって塩害による劣化が生じたため、今年度に補修・補強工事が実施されました。そのうち、RC桟橋と陸側護岸を繋ぐPC桁77本に対して電気防食工法(チタングリッド陽極:施工面積633m2)が適用されました。

本システムを適用した桟橋の全景
本システムを適用した桟橋の全景

  • 電気防食工法を適用したPC桁の概況電気防食工法を適用したPC桁の概況
  • 電源装置・モニタリング装置電源装置・モニタリング装置

広範囲に適用された電気防食工法の維持管理においては、長期的な鉄筋腐食の抑制効果を確認しながら、適切かつ効率的に維持管理していく方法が必要となります。そこで、上記の目的を達成する上で有効なツールである本システムが採用され、実構造物における電気防食工法の維持管理に初めて適用されました。なお、本桟橋の電気防食工法のモニタリングは、(株)ピーエス三菱の機器や遠隔システムを、この電気防食工法の維持管理支援システムに融合する形で実施しています。

●本システムの特長

本システムは、電気防食工法の維持管理業務の効率化・省力化を目的として、構造物に設置された複数の電源装置および照合電極からの連続的なデータと、異常値が得られたときの専門技術者による具体的な対処方法を、インターネット技術を介して構造物所有者(ユーザー)に提供する技術です。

本システムの特長

このシステムは、これまでの維持管理方法に比べ以下の利点があります。

  1. 連続的な情報収集により電気防食工法の変状をつかむことが可能
    遠隔システムにより日々モニタリング情報が収集されるので、電気防食工法の故障などの変状を即座に把握することができます。これにより、点検の頻度やそれに要するコストを縮小でき、さらには故障が発生しても早期に対応できることから、安心して電気防食工法を運用できます。
  2. 高度な診断技術を持つ専門技術者がサポート
    電気防食などの構造物の維持管理に関して知識や経験のないユーザーでも、本システムによって専門技術者のサポートを受けることができ、安心して維持管理業務を行うことができます。
  3. 大量のデータを自動管理
    日々回収されるデータは、以後の電気防食工法の維持管理において有用な情報でありますが、数十年にわたる記録管理には多大な労力とコストが必要になります。日々回収される大量のデータの記録管理は、本システム内で自動的に処理されるので、記録管理に要する作業を省略できます。

●本システムの概要

本システムの流れは以下のようになります。

  1. 設置された複数の回路、照合電極の位置を簡単に把握可能
    電気防食工法の回路は広範囲に跨り、煩雑に配置されることが多いので、全体的な回路図やその回路に設置された照合電極の位置を、分かり易い図で表示します。
  2. 遠隔操作によるデータ回収
    現地で収集されたモニタリング情報は、メール機能を用いた遠隔操作により管理者側のサーバーに自動回収させます。
  3. 複数の情報管理の簡便化
    回収された複数のデータは使われている照合電極の種類に応じて自動処理されるので、専門技術者はデータ整理に時間を掛けずに済みます。
  4. WEB画面を用いた計測情報の表示
    実際の管理においては、管理者が複数の情報を日々個別に確認するには多大な労力を費やすため、インターネットを利用してWEB画面上に一覧表示します。
  5. 「しきい値」を設定することにより、重点点検部位を効率的に維持管理
    WEB画面上に複数の情報を一覧表示するとき、防食管理基準と呼ばれる「しきい値」を専門技術者が事前に設定します。
    具体的には、照合電極や電源装置がその「しきい値」を超えない状況を計測しているときは「緑色」、「しきい値」に近付くまたは一時的に「しきい値」を超える傾向を計測したときは「黄色」、「しきい値」を継続的に超える状況を計測したときは「赤色」を自動表示させます。
    これにより、電気防食工法の全体的な変状を把握することができ、重点的に点検を行なう必要がある部位を特定することができます。「しきい値」を超えた部位では目視などにより重点的に点検することで、効率的な維持管理を行なうことが可能になります。

本システムを適用した現場では、「コンクリートライブラリー107 電気化学的防食工法 設計施工指針(案)土木学会」に示される防食基準に準拠して、以下の値をしきい値として用いています。

  • (1)電源装置の定格電圧を超えているかどうか
  • (2)通電中の鋼材の電位(飽和硫酸銅電極基準)が-1000mV以上かどうか
  • (3)復極量が100mV以上あるかどうか

●今後の展開

今回開発した「電気防食工法の維持管理支援システム」を活用することにより、電気防食工法の維持管理業務の効率化・省力化を図ることが可能になりました。また、長期的な電気防食工法の点検に要する労力・費用も省略することも可能になりますので、今後、本システムへのニーズは高まるものと期待されます。

当社は今後、構造物の所有者と連携を取りながら効率的なシステム開発に取り組むとともに、電気防食工法以外にも、構造物の様々な劣化を対象としたモニタリングに対して本システムの適用を拡大し、さらに各種劣化に対する精度の高いセンサー開発を進め、維持管理に対する技術開発に注力してまいります。