岸壁・護岸背面地の空洞・ゆるみ調査手法を開発
〜非破壊電磁探査と原位置試験の組合わせにより地下水位以下の調査が可能に〜

2006年08月04日

  • ◆従来困難であった地下水位以下の空洞やゆるみが非破壊で探査可能に
  • ◆埋め立て土砂の吸い出し対策に合理的な対策を提案可能

東亜建設工業と、株式会社環境総合テクノスは共同で、マルチ周波数型EM探査法※1と原位置試験(コーン貫入試験※2等)を組み合わせた、岸壁・護岸背面地盤内の空洞・ゆるみ箇所の調査手法を開発しました。この調査手法により、従来用いられてきた地中レーダー探査等では対応が困難であった地下水位以下の空洞・ゆるみ域の調査を可能としました。

今後当社では、この診断結果をもとに、対策工法の選定および対策範囲の決定など、合理的な対策方法をご提案してまいります。

  • 調査状況調査状況
  • 調査結果調査結果
※1 マルチ周波数型EM探査
非破壊の電磁探査の一つで株式会社環境総合テクノスにより開発された方法です。当該手法は地上に設置した発信源から16種類の周波数の磁場を順次発生させることで地盤中に二次磁場を誘導し、その二次磁場強度を測定することによって地盤内の相対的な比抵抗分布を測定します。ここで、比抵抗(電気の流れにくさ)は、砂の間隙の大きさ(ゆるみの程度)によって変化します。ただし、マルチ周波数型EM探査を埋立て地盤のように緩い砂地盤の空洞・ゆるみ調査に適用する場合、得られる結果は比抵抗のコントラストのみで、空洞やゆるみの度合いがわからないといった問題がありました。
※2 コーン貫入試験
コーン貫入試験とは、円錐状、いわゆるコーン状に先端が尖った鋼製ロッドを地中に貫入し、先端に作用する抵抗力やロッドの周面摩擦、間隙水圧を連続的に測定する原位置地盤調査法です。

●開発の背景

近年、埋立て土砂が岸壁・護岸の隙間から吸い出されることによって、埋立て砂地盤の局部的な陥没・沈下が発生する被害が多くの岸壁・護岸で報告されています。このような被害は、建設から10〜20年以上経過したケーソン式岸壁・護岸等にみられ、その対策が必要とされています。

このような被害箇所において、有効な吸い出し対策を検討するためには、吸い出し箇所と範囲の特定が重要です。従来の調査法としては、地中レーダー法やS波浅層反射法などが用いられています。しかし、一般に吸い出し箇所は地下水面以下に存在することや調査域にはケーソン等の構造物が存在するため、これらの手法では、地下水位以下の調査は対応が困難(地中レーダー)、ケーソン等のコンクリート構造物の影響をうける(S波浅層反射)等、有効な調査法がありませんでした。

●当該調査法のポイントと特長

◆開発のポイント
  • マルチ周波数型EM探査法の発信周波数帯を、東亜建設工業が保有する埋立て地盤の蓄積データに基づき、ゆるい埋立て砂地盤に最適な周波数帯に変更。
  • マルチ周波数型EM法により得られた比抵抗と原位置試験により得られた相対密度の相関関係を比抵抗の逆解析に組み込むことで、解析精度が向上。
  • マルチ周波数型EM法より得られる相対的な比抵抗分布を比抵抗〜相対密度関係を用いることにより、空洞・ゆるみ域の評価が可能。
◆特 長
  • 地下水位以下の空洞・ゆるみ域の調査が可能。
  • ケーソン等のコンクリート構造物の影響がない。
  • 潮位変動の影響を受けない。

●実証実験の内容

今般、ケーソン式岸壁背面地盤を対象に実証実験を実施しました。当該箇所はケーソン目地からの吸い出しにより、背面地盤に陥没が見られ岸壁前面海底部に流出砂が確認されています。対象としたのは、吸い出しを受けている箇所(未対策箇所)と背面地盤を砂杭により締め固めた箇所(健全な箇所)の2箇所です。図1に平面・断面図を示し、図2に当該調査法により得られた比抵抗〜相対密度関係を、図3に未対策箇所と健全な箇所の比抵抗分布を示します。

調査結果より、未対策箇所では空洞・ゆるみ箇所の存在が認められ、健全な箇所では空洞・ゆるみ箇所の存在が認められないのがわかります。

図1 平面・断面図(標準断面)

図1 平面・断面図(標準断面)

図2 比抵抗〜相対密度関係

図2 比抵抗〜相対密度関係

図3 比抵抗分布図(25Ωm以下が空洞・ゆるみ域)

図3 比抵抗分布図(25Ωm以下が空洞・ゆるみ域)

<適用実績>

  • ・T社岸壁背面地盤空洞調査
  • ・O県岸壁背面地盤空洞調査 他1件

<対策工事実績>

  • ・吸い出し防止工事

●今後の展開

当社では、本調査法を用いて、吸い出しによる空洞・ゆるみ域の範囲・大きさを診断し、この診断結果をもとに、対策工法の選定および対策範囲の決定など合理的な対策方法をご提案してまいります。