津波来襲時の係留船舶動揺シミュレーションを開発
〜従来の認識をはるかに超える被害が生じる可能性が明らかに〜

2006年04月28日

  • ◆京都大学防災研究所との共同研究
  • ◆港湾施設の津波に対する安全性や被害の予測が可能に
  • ◆BCP(事業継続計画)策定時に港湾施設の評価情報を提案可能

東亜建設工業は、京都大学防災研究所(高山研究室)との共同研究により、係留された大型船舶に津波が作用した場合の船舶の挙動や、係留船舶が係留施設へ衝突した時の影響について、模型実験・数値シミュレーションを通じて明らかにしました。

巨大地震の地震動による、直接的な被害に対する対策は研究が進んでおり、順次対策が進められていますが、津波による港湾施設の被害推定やその対策は、大きな被害が想定されているにも関わらず、現状ではまだあまり進んでいないと言えます。

当社ではこのようなニーズに対応するため、産学の連携による共同研究を実施し、港湾施設の津波に対する安全性や被害の予測が可能な「係留船舶動揺シミュレーション」を開発しました。

また、これらの模型実験および数値シミュレーションによって、津波の高さが小さいにもかかわらず、従来の認識をはるかに超える被害が港湾施設に生じる可能性があることが明らかとなりました。

●背景

現在、東海・東南海・南海地震や三陸沖地震などの巨大地震は、いつ発生してもおかしくない状況であると言われており、地震動による直接的な被害に対しては耐震化や液状化対策が順次進められつつあります。

一方、海溝性地震の後に来襲する津波に対しては、その特性や浸水予測などについて研究が進められ、成果が被害の推定や防災対策に利用されているものの、港湾施設そのものの被害推定や対策については、まだ研究が進んでいないのが現状です。

津波による港湾施設の被害では特に、岸壁やドルフィンに係留された大型船舶に津波が作用した場合、それら船舶が退避できず大きな被害となる事が予想されています。

津波によって港湾施設が大きな被害を被った場合、仮に陸上施設が震災を免れたとしても、背後地の産業や物流は滞ってしまうこととなります。BCP(事業維持計画)策定の観点からも、これらの被害の推定や対策が早急に望まれています。

津波作用時の係留船舶の挙動

●概要

このような背景を踏まえ、東亜建設工業では京都大学防災研究所と共同研究を行い、係留された大型船舶に津波が作用した場合の船舶の挙動や、係留船舶が係留施設へ衝突した時の影響について、水理模型実験を実施して明らかにしました。また、船舶動揺シミュレーションを開発し、津波に対する適用性を実証しました。

この研究成果を元にした「係留船舶動揺シミュレーション」では、港湾施設の津波に対する安全性や被害の予測が可能となり、最善の対策を提案することができます。

―水理模型実験の概要―

水理模型実験は、二次元造波水路にて縮尺を1/50として実施しました。係留施設として岸壁とドルフィンの2ケースを想定し、津波の周期・高さ、船舶の積載状態、係留索の本数など、種々の条件に対して実験をおこないました。

実験の結果から、ドルフィン係留の場合には、津波の高さが0.5m程度と小さい場合にも、係留索が破断する位置まで沖合へ引き離されるケースが確認されました。(なお、中央防災会議が想定する東京湾内最大の津波の高さは、東京湾内直下型で0.5m)また、岸壁・ドルフィン係留いずれの場合にも、防舷材への衝突速度が、一般に係留施設の設計で適用される接岸速度0.1〜0.2m/sよりも大きい値となることが確認されました。さらに、防舷材への衝突力も防舷材の標準性能内における最大反力を大きく超える値となることが確認され、実際に津波が作用した場合には、係留施設に大きな被害の生じる可能性が高いことが明らかとなりました。

実験状況
実験状況

―係留船舶動揺シミュレーションの概要―

船舶動揺シミュレーションにより、津波による船体の挙動や係留索の張力、防舷材への衝突力を的確に評価でき、被害の推定、対策の有効性の検討が可能となります。

この船舶動揺シミュレーションと、あらかじめ津波シミュレーションにより求めた、評価対象地点での水位変動推定結果をリンクすることで、任意の津波・係留施設・船舶の組み合わせに対する係留施設への影響をピンポイントで評価することが可能となります。また、係留施設への影響に対して、最善の対策を提供することができます。

●今後の展開

今回の成果により、当社は、従来からある津波シミュレーションおよび津波浸水シミュレーションと、今回新たに開発した係留船舶動揺シミュレーションを組み合わせて、各地の公共および民間の港湾施設を対象とした、総合的な津波被災低減対策の提案が可能となりました。

今後も当社は、港湾施設の安全性向上、防災・減災機能向上を目指して、社会に貢献する技術の研究開発に取組み、その成果を、港湾施設を管理する関係者の皆様に、さまざまな形で御提案し、企業の社会的責任を果してまいります。