温度管理付き粘弾性ダンパーを使用して事務所ビルを耐震改修
〜T-VED制震工法を実用化〜

2003年03月28日

  • ◆温度をコントロールして、低温環境下でも粘弾性ダンパーの性能を確保
  • ◆建物を供用しながらの改修工事

ビルを供用しながら粘弾性ダンパーを設置
ビルを供用しながら粘弾性ダンパーを設置

東亜建設工業は、「温度管理付き粘弾性ダンパー」を当社のグループ企業が現在使用している安善ビル(横浜市鶴見区安善町、1970年築)の耐震改修工事に適用し、「温度管理付き粘弾性ダンパー」を用いた当社独自の『T-VED制震工法』の実用化に目途をつけました。

ダンパー本体には、微小の振れから大地震まで幅広く減衰性が得られるジエン系粘弾性ダンパー(昭和電線電纜製)を採用しました。

今回の工事では、既存建物の改修工事で最も難関と言われる「供用しながらの施工」も実現しました。

粘弾性ダンパーを建物に取り付けるための鉄骨ブレースの製作と施工は、東亜ビルテック株式会社および東亜鉄工株式会社が担当しました。施工にあたってはユニット化を図って作業効率を高めました。さらに、このダンパー鉄骨ブレースの据え付け時には、アンカー設置位置の精度を高めるため、事前に鉄骨ブレースのアンカー孔を写し取った伸縮性のないフィルムを使用してアンカー位置の墨出しを行なうなど、種々の工夫を凝らしました。これにより、ダンパーと鉄骨ブレースとのずれが最小に抑えられ、充分な精度でダンパーを設置することができました。最終仕上げとして、ダンパーに面状発熱体、蓄熱用セメント板、発泡樹脂材を取り付け、さらに、24台設置されたダンパーの温度を集中管理できる制御システムを採用しました。

  • ゴム粘弾性体と鋼板の積層ダンパーに面状発熱体、蓄熱用セメント板を設置したところ。発熱体への電気のオン/オフは、粘弾性体に取り付けた熱電対型サーモスタットで制御。

  • さらに、蓄熱用セメント板の周囲を発泡樹脂材等で覆い、熱効率を向上。粘弾性体の温度を設定範囲に保つことが可能に。

●背景

ここ数年来、地震時に建物の揺れを抑えて高い安全性を実現する耐震安全性への関心が高まっています。さらにリニューアルのニーズにともなって、新築建物だけでなく既存建物に対しても、制震補強の採用や短期間でかつ移転や引越しをしないで施工中も建物が使用できる技術対応が求められています。

●温度管理付き粘弾性ダンパーの特長

制震装置はさまざまな形式のものが実用化されていますが、粘弾性ダンパーは、鋼鈑の間にゴム状の粘弾性体を挟んだシンプルな構造であり、しかも地震時に大きな減衰性能を発揮します。これに加えて、メンテナンスがほとんどいらず、新築建物だけでなく既存建物の耐震補強としても設置することができるなどの特長があります。しかし一方、冬期の寒さで粘弾性体が硬くなり、その耐震効果が低下するという欠点もありました。

今回実用化した「温度管理付き粘弾性ダンパー」は、東亜建設工業と早稲田大学(曽田五月也教授)とが、2000年4月より共同で研究・開発を進めてきた新しいタイプの粘弾性ダンパーで、低温になるとサーモスタットが働いて面状発熱体(住宅の床暖房とほぼ同様)が作用して粘弾性体を暖める機能を持っています。(この機能は、当社と早大が共同特許を出願しています。)


粘弾性体の温度を集中管理。
発熱体の温度コントロールに使用する熱電対型サーモスタットは、
低温時には電気を使用しますが、地震時には電気を使用しません。

●今後の展開

当社は今後、中高層建物だけでなく中小規模の建物まで含め、耐震性向上が図れる本制震ダンパーの採用を積極的に提案していく考えです。