木の良さを感じてもらえる、建築空間をめざして
東亜建設工業では、「木材利用技術による循環社会への貢献」をESG行動計画に掲げ、すでに、石川県や愛知県において木造のリゾートホテル建築などに実績を重ねています。しかし、今後さらに木質化を普及させていく上で、ある課題がありました。
- 当社としては、建築物になるべく木を使って、循環型社会に貢献したいという思いがありました。しかし、現状では、木造建築を望むお客さまは決して多くはありません。また、当社が手掛ける規模の建築物を木造にする場合、柱などを耐火材で覆う必要があるため、木材に直接手を触れることができなくなってしまいます。木材を使うことで環境貢献はできますが、やはり、木に触れて、木の良さを感じてもらえる建築物にしないと木質化に興味をもってもらえないのではないか。そこで考えついたのが、内装の木質化です。これなら、お客さまに木の魅力を身近に感じてもらえる。そこで、中大規模建築物の内装を効果的に木質化するアイデアを探すなかで、出会ったのが小泉さんでした。
- 実に、不思議な出会いでしたね。でも思いが一緒だったので、すぐに意気投合できました。実は、住宅建築の現場でも、最近は木の良さをお客さまに伝えることに苦労しています。せっかく大工さんが良い仕事をしても、家が完成するとボードやクロスで隠されてしまう。柱や梁に木がたくさん使われているのに、暮らす人にはそれが見えません。それでは大工さんのモチベーションも上がりませんよね。そこで我々は、大工さんがテーブルなどの家具も作り、住む人に使ってもらうことで木の良さを伝える取組みを始めました。この活動を「わざわ座」と名付けて、今では全国約70社が参加するまでに広がっています。
- 木の良さを伝えたいという思いが同じだったのですよね。それにしても、素晴らしい職人さんが、全国にたくさんいらっしゃるのは心強い限りです。当社も全国にお客さまがいますから、地元の木材を使って、地元の大工さんにオフィスの内装などを作ってもらえば、そこに特別な価値が生まれるかもしれません。それに、木材の地産地消はさらなるCO₂削減にもつながります。これは大変素晴らしいことになると、大きな期待とともにブロジェクトをスタートさせることができました。
木と人は、肌が合う
第2実験棟の木質化計画では、主に3階部分を鉄骨造と木造のハイブリッド構造にすることで、約20tのCO₂を固定化。さらに施工過程で発生するCO₂を鉄筋コンクリート造の約4割にまで削減できました。しかし、より大きな成果となったのは、木の魅力が溢れる内装の木質化です。
- 木材の見た目や手触り、そして香りを感じられて、思った以上にリラックスできる空間になりました。木の香りは血圧を下げてストレスを和らげる効果があるそうですし、光の反射率も50〜60%ほどなので空間がやさしい雰囲気になりました。第2実験棟は研究施設なので、少し堅苦しい雰囲気があったのですが、ここで働く社員からも「緊張感が緩和される」「あたたかい気持ちになる」といった声がたくさんあがっています。
- 一般的に、オフィス空間はグレーやブルーなど寒色系が多く、集中できるのかもしれませんが、どうしても緊張感が漂ってしまいます。今は、どの業界でも仕事の質が変わってきて、ただ目の前の仕事をこなすのではなく、新しい発想力が求められています。クリエイティブな発想をするには、緊張感ではなく心理的安全性が大切ですから、木の空間の方がアイデアが出やすいように思います。でも、どうして私たちは木に安らぎを感じるのでしょうね。
- 長年、木に関わる仕事をするなかで感じるのは、「人と木は、肌が合う」ということです。例えば、手触りですが、鉄や石は触ると冷たかったり熱かったりしますが木はいつも温かいですよね。それから、育つ時間も似ています。木材として使えるようになるのにかかる時間は20年程度で、人が一人前になるのと同じです。しかし、鉄は何年かかるでしょう。鉄鉱石ができるまで、何千年・何億年もかかります。プラスチックは石油が原料ですから、もっとかかるでしょう。それに、木は誰でも切ったり削ったりできますが、鉄を加工するにはものすごくエネルギーが必要です。そういう意味で、木と人は、身近な友達なのだと思います。だから一緒にいると安心するのもしれませんね。
ものづくりに大切なのは、
「何を作るか」ではなく
「誰と作るか」
中大規模建築物の木質化では、世界でも最も厳しいといわれる日本の耐火基準をクリアすることも大きなハードルになっていたが、今回のプロジェクトで解決方法が見えてきました。
- 準耐火建築物にするためには、例えば壁の仕上げに木材を使う場合は面積に制限があるなど、さまざまな設計上の規制があります。もちろん安全性を確保することは不可欠なのですが、基準をクリアしつつ、木を感じられるデザインにする方法もいくつか発見することができました。1階エントランスの壁には縦方向にルーバーを設置して林に入って行くようなイメージのデザインにしましたが、ルーバーを壁から少し離し、壁材ではなく装飾物としての扱いにすることで、天井までほぼ全面を木のイメージにすることができました。こうした工夫を今後の木質化提案にも生かしていきたいと思います。
- 今回、小泉さんの協力も得て、木質化の新しい挑戦がいろいろとできたので、ぜひ、これをお客さまにも見ていただけるよう、第2実験棟を木質化のショールームとして活用していく予定です。木の良さを体感していただいて、その魅力を発信していく拠点にしたいと思います。小泉さんや「わざわ座」の大工さん、職人さんたちの素晴らしさも知ってもらうことで、みんなで協働して、お客さまと社会に貢献していければ良いなと考えています。
- ありがとうございます。ものづくりは、何を作るのかではなく、誰と作るかがすごく大事です。東亜建設工業さんとは、今回とても良い形で共鳴させてもらいました。これからも、共鳴の輪をもっと広げて、環境にも人にもやさしい木質空間づくりを頑張っていきましょう。